▽ALSに関連した最初の遺伝変異は1993年にSOD1遺伝子で発見されました。その後20年間にわたり、研究者らは変異SOD1蛋白質とALSとの関連性について研究をしてきましたが、SOD1蛋白質が運動神経細胞を変性させる正確な機序は今なお不明です。
▽SOD1蛋白質の病原性は、酵素活性が失われることに起因するのではなく、変異により酵素が細胞毒性を獲得することに起因すると考えられています。現在家族性ALSに関連して170以上のSOD1遺伝子の変異が報告されており、これらの変異の多くは、SOD1蛋白質の形態変化を伴います。
▽この形態変化によるSOD1蛋白質の不安定化が、折り畳み構造の異常につながり、さらに凝集につながり、そのために神経細胞の機能異常と細胞死をもたらすと考えられています
▽SOD1変異モデルマウスは、ヒトG93A変異SOD1遺伝子を23コピー保有しています。その結果、運動神経細胞で高濃度のヒトG93A変異SOD1蛋白質が発現することになります。
▽研究者らは、このモデルマウスを、銅シャペロン蛋白質(hCCS)過剰発現マウスと交配したところ、生存期間が極端に短縮することを発見しました。SOD1蛋白質は、銅との親和性が最も強い蛋白質の1つであり、hCCSによる銅の枯渇が致死的であることをあらわしています。
▽特定のシャペロンがSOD1変異マウスの生存期間を短縮する理由の1つは、ミトコンドリアにおける銅欠乏がもたらされる点にもあるのではないかと推測されています。研究者らは、CuATSM(Copper ATSM
)と呼ばれる、ミトコンドリア障害を有する細胞に特異的に銅イオンを分配する薬剤を用いて、SOD1変異/hCCSモデルマウスにおいて、生存期間の延長をもたらすことを報告しました。CuATSM投与を中断すると、病態進行が再開しました。またhCCS過剰発現のない、通常のSOD1変異モデルマウスにおいても、CuATSM投与は、生存期間を16%延長させることが報告されています。
▽銅イオンのない状況下におけるSOD1蛋白質は、大部分が折り畳み構造における異常を有しており、その結果凝集したり、細胞内の別の機構と異常相互作用を起こしたりします。
▽変異SOD1蛋白質の凝集を抑制する物質による治療は有望な選択肢となります。この問題に対して2つの異なるアプローチが提案されています。
▽1つ目のアプローチは、変異SOD1蛋白質と、自食阻害作用を有する薬剤であるthapsigarginで処理したNSC-34細胞におけるスクリーニングの結果発見された、変異SOD1蛋白質の凝集を阻害する小分子によるものです。
▽この小分子は、蛋白質凝集を阻害し、小胞体ストレスと、アポトーシスを抑制します。この小分子によりSOD1変異モデルマウスを治療すると、体重の増加が観察されましたが、残念ながら生存期間の有意な延長はみられませんでした。
▽もう1つは、SOD1蛋白質の異常折り畳み構造の細胞間伝播を抑制する物質の探求です。これまでの研究において、ヒトの細胞(HEKs)における折り畳み異常SOD1蛋白質の発現は、内因性の折り畳み異常のないSOD1蛋白質を、異常折り畳み構造に変化させることが示されています。
▽マウスの細胞では、このような異常の伝播は起こらず、このことは、ヒトSOD1蛋白質とマウスSOD1蛋白質の相違に起因すると考えられています。ヒトSOD1蛋白質ではトリプトファンの部位が、マウスではセリンになっています(position 32)。
▽正常構造のSOD1蛋白質が、折り畳み異常構造に変化する過程において、ウリジンを含有する5-Fluorouradineが、用量依存性に、SOD1の異常構造への変化の伝播をブロックすることが判明しました。
▽ウリジンが変異SOD1モデルマウスにおいて治療的効果を有することが既に報告されており、このことはウリジンがSOD1凝集を抑制する作用があるからではないかと考えられています
▽さらに別のアプローチとして、SOD1蛋白質の発現量を減少させる試みがあります。研究者らは、アデノ随伴ウイルスベクターとmicroRNAを用い、SOD1遺伝子のexon 2をターゲットにしたmiRNAを導入することで、4週齢のSOD1変異モデルマウスにおいて、脊髄中のSOD1発現量を50%減少させることに成功しました
▽一度のみのアデノ随伴ウイルスベクター注入により、モデルマウスの生存期間は137日から206日に延びました。運動神経細胞数や筋肉組織も保持されていました。
・SOD1変異モデルマウスによる実験的治療段階ですが、ウイルスベクターを用いた方法などは、ALSの他の病型にも適応が期待できる方法と思われます。
引用元
http://reccob.wordpress.com/2014/12/07/session-9a-modulating-sod1-toxicity/
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AAVによる治療は有効なんだと、改めて考えさせられました。遺伝子治療研究所のアプローチはど真ん中、どストライクでは、、、、?
AAVは進行を著しく抑制するだけでなく、症状においても多少の改善も期待できそうなので、とにかく早く実用化して欲しいです。
とても興味深い研究結果だと思います。
いつもありがとうございます。
遺伝子治療研究所を何らかの形で後押しできないものでしょうか。
そうですね。これからご紹介できると思うのですが、今回のブリュッセルのALS/MNDシンポジウムでも郭先生のグループの他にいくつかのグループがAAVを用いた治療戦略を研究していました。
中でも遺伝子研究所の手法は、技術的にも洗練されていると思います。
早く臨床試験を実現して欲しいですね
そうですね。ALS associationなどから直接的な支援が得られるといいのですが。
確か国際的にも研究支援を展開していた(はず)なのですが。
第2相臨床試験実施にあたってのコストは、疾患、薬剤により異なるようですが、だいたい患者1人あたり500万円はくだらないようです。20名集めるにしても最低でも1億円は必要な計算になります。
(こちらのサイトを参照:http://celltherapyblog.blogspot.jp/2011/07/clinical-trial-costs.html)
有望な研究には、コストを惜しまず、国からもきちんと支援を行って欲しいと思います。
遺伝子治療研究所に問い合わせしたところ資金の集まりが思うように進まず、治験が遅れる見込みところ言われました。
この病気は少しでも早く治療を受けるのが大切だと思っています。
助かる道がわかっているのに、たどり着くための道しるべがなく、非常に歯がゆいです。何かアクションを起こせないものでしょうか?
結局あれもこれも全部税金から賄われるわけで、どうしても選挙したければ身銭でやったらいい、その分の一部を再生医療や難病支援に使ってくれよ、、、済みません、愚痴になっちゃいました。
日本は資金集めが難しいと昔から言われてますね。
せっかく第一線の研究があっても、その先へ物事が進まない現状を半分呪ってます。
昨年の今頃はAAV9で盛り上がったのですが、一年経った今はどうでしょうか。
今年中に何かないか期待しても意味ないとしても、来年早々には飛躍的な進展を期待したいです。
日本ではやはり国の資金が頼りだと思います。遺伝子治療は今年の厚労省科研費を落とされましたが、シンポジウムに見られる国際的な注目に比べて、国内の評価が低いような気がします。残念です。
アメリカのALS協会は、アイスバケツチャレンジで100億円以上集めたので、大口の支援が得られれば良いのですが。。。
議員に理解をいただき、行政を動かしてもらうことも重要かと思います。
議員に理解をいただくためには、組織的に陳情活動をすることなども必要だと思います。
おっしゃる通りですね。
技術立国である日本の経済を立て直すには、まさにその技術の根源である基礎研究を大切にすべきだと思います。
さらにその先の実用化につながる研究についても、大切にしないと真の発展にはつながらないと思います。
金銭的問題で進まない、というのはもどかしい限りですね。予算の配分をしっかり考えてもらいたいものです。
厚労科研は、政治的意向も関与して、重点分野に優先的に配分されるのかもしれません。
ALSの治療的研究から得られる科学的知見は、どの分野にもまして大きいと思うのですが、国にその意識がないとすれば残念な話です。